今日の実験ノート2

日々の調査研究

『エコハウスのウソ』1 読後メモ

タケタケと住宅特集勉強会してるからなのかな?さいきん「建築と人間と温熱環境」についての興味が出てきて、まずは、ということで前真之さんの『エコハウスのウソ』を読んだ。いま2巻を読んでるのですが、備忘録として1巻の面白かったとこ書いときます。

全体の感想としては、めちゃくちゃ教科書的。イラスト多く、授業を聞いてるような語り口で、何より文字が大きいのがよかった笑。「エコハウスのウソ」というタイトルのせいでニッチな本な印象があって遠慮してたけど、基本中の基本を丁寧に解説してくれる「チャート式」黄色みたいな王道系の本だった。高校生のときチャート式の青色に挫折したのを思い出した。

また、いきなり断熱性能の話とかに入らず、「人間と気候」から始まって、気候区分(日本の地域間の温度差は、夏は大差ないが冬は大きい)だったり、恒温動物(人間は熱を放出する能力に長けていて、寒さに弱い)など、すごい大きな話から始まるのも嬉しかった。以下、面白かったとこ、びっくりした箇所のメモです。

「年間を通した水平面日射量」は地域差があまりないが、「冬の南垂直面日射量」は地域差が大きい。

1月の日平均日射量(南垂直面)は、東京14.1(MJ/㎡日)に対して秋田は6.3しかないし宇都宮は16.3もある。同じ北海道内でも札幌10.0と帯広17.4とかなり開きがあるし、九州でも宮崎15.4と福岡9.0で全然違う・・

冬のダイレクトゲインに向く地域と向かない地域があるのは知ってたけど、その地域差が「日本海側と太平洋側」みたいな括りは全然雑で、もっと細かい地域区分で見ていかないと、例えば南面にデカい窓にしても効果が弱かったりする(むしろ外に逃げる熱のほうが多くなるかも)的な話(1巻、P.85〜93)

PMV・PPDの快適性モデルの結果によると、通風は1〜2度程度は許容空気温度を上げる涼感が得られるが、多湿への対策にはならない。風速は1.0m/s以上に上がっても快適性は上がらない。

夏。窓あけて通風を得られれば涼しくなるけど、気温でいうと1〜2度下がった位の快適感しかないよ〜、外が35度あったら窓からの通風あってもキツイし「風通しがいい」にあんまり期待すんなよ〜的な話。(ただ窓を開けられる環境であることは大事だと思う)。(P.100〜105)

木の熱伝導率(λ)は0.15程度

これ、図面書きながらずっと気になってたけど、いわゆる柱間に断熱材を入れる充填工法だと、柱や梁が熱橋になって(断熱材に比べれば)熱を伝えやすいのよね。24kのグラスウールの熱伝導率0.038、ネオマが0.020以下とかだから、熱伝導率は4倍〜8倍くらい違う。

まあ、柱は厚みもあるし、充填+外張り断熱の併用を検討するよりまずは窓のほうが(コスト的にも)優先順位は上だとは思うけど、木サッシでは最強の木も断熱材と並ぶと熱橋になりうる、ということは忘れずにいたい。

ちなみに熱伝導率は、静止空気が0.022、塩ビが0.17、ガラスが0.8、コンクリートが1.6、鉄が83、アルミが236(!)だそうです。これ来週のテストで出るからな。

(割合として)冷房は大したことなし、本当に多いのは給湯や照明・家電

イメージとしては暖房・冷房が一番エネルギーを使うと思われているが、実際は異なる。住宅における2次エネルギー消費量の内訳(2012)の全国・通年では、暖房(25.9%)冷房(1.8%)給湯(31.2%)照明・家電(41.1%)とのこと。2012年より今のほうが冷房使ってそうだけど、まずは給湯や照明・家電の省エネを心がけるのが有効だよね、という話(p.166、p.350)

ちなみに節湯がコスパ最強の節約行動で、ガス代と水道代の両方を節約できる。特に風呂とシャワーがデカいそうです。

食器洗い担当の私、洗いながらお湯出しっぱなしにするの、そろそろヤめるか。

エアコンの「◯◯畳」の目安は断熱等級3の貧弱な建物を想定

エアコンの畳数目安が過剰であることは聞いたことあったけど、3だったとは。断熱等級に応じた目安があるといいけど、空間の形にもよるし、難しいよね。(P.175)

PMVが±0.5に納まる冷房温度と相対湿度は、26度で70%、27度で50%、28度で20%

この本で一番驚いたトピックこれかもしれん。

「26度で70%、27度で50%、28度で20%」

・・↑この3つはだいたい同じ快適度である

という雑な解釈をすると、相対湿度よりも温度を下げるほうが除去すべき熱量が小さくて済む。しっかし2℃でこんな違うんか!!

あとはエアコンの特性上、除湿に大きなエネルギーがかかることもあり、まずは温度を何とかしたほうがコスパがいいことを知っておく。(P178〜181)

南面の大窓ダイレクトゲイン、真冬でもオーバーヒートする

南面にH6m×H2.5mの大窓をつけた「木造住宅」でシミュレーションすると、真冬でも晴れの昼間は48度、快晴の昼間は60度まで気温が上がる(!)しかも夜や明け方の室温は10度を下回るという。同じ条件でも木造ではなく"熱容量の大きい"RC造にした場合は昼間の最高温度27度、明け方の最低温度14度と温度変化の小さい快適な空間になった。ダイレクトゲインの日射熱利用は一見シンプルに見えるが、蓄熱や熱容量など、それ専用の注意深い設計が必要不可欠とのこと。(P252-258)

髙木貴間による北海道・札幌市の自邸「西日の長屋」では、あえて温熱環境にムラをつくることを試みているが、とくに「温室のキッチン」と呼ばれる3階の南東面に面した部屋は、ダイレクトゲインで冬でも40度を超えると書いてある。最初これ読んだときは「んなワケ!!!!」と山本匠晃ばりの声を出したが、上のシミュレーションを知ると納得である。この温室部屋の熱容量を上げるための工夫(床材をタイルにするとか、潜熱蓄熱材を壁・天井に仕込むとか)があったらより良かったのかもしれない。

この住宅好きで2023年住宅特集勉強会でも年間ベスト5に挙げたくらいなんだけど、写真ごとに「別の住宅か?」という疑うくらいとにかくシーンが多いのが魅力的。移動が楽しそう。

床暖房の加熱能力は1㎡あたり100〜200W程度

さらに放熱面の敷設率(60〜70%)を考慮すると、10畳(18.6㎡)でも2000W以下の加熱量しかない。エアコンが5000Wとかあるので加熱能力としては弱い(P287)。学ぶべくは暖房能力をWだったり定量的に理解したり比較できることが重要だなっていう話。

薪ストーブは放射メイン、放射は距離の2乗に反比例して減衰する

薪ストーブとペレットストーブを比較する章もあって面白かった。(p298-307)

薪ストーブは放射メインで、一方ペレットストーブは対流メイン(ファンから温風が吹き出る)の実質的にはファンヒーターという話とも知らなかった。薪ストーブの「放射」は「距離の2乗に反比例して減衰」するから、人の近くに設置する必要がある。うっかり土間とかに置きそう。気をつけよう・・。また放射は障害物によって遮断されるため、薪ストーブと人間の間に大きな家具とかがあってもNG。「人にほど近く」「部屋の真ん中あたり」におくポジショニングが重要。セルヒオ・ブスケツ