今日の実験ノート2

日々の調査研究

ウガンダ疾走調査(その2 - 土の家と煉瓦の家)

ウガンダ疾走調査レビュー中編。今回はウガンダの民家がメインです。前編でサファリツアーについて全然触れられなかったので、野生動物も少し振り返る感じになります。

 

1.チンパンジーの森へ

2日目。午前中はKibale Forest National Parkへ。この国立公園は総面積が795k㎡と、東京23区(619km²)より大きい熱帯雨林が広がっていて、チンパンジーをはじめ13種類の霊長類が生息している。チンパンジートレッキングの名所として知られている森だ。

当日は、昨夜から朝方にかけての雨の影響でチンパンジーたちは高い木の上に移動していたため間近で見ることは叶わなかったが、それでも木の上で過ごすchimpsの様子を観察することができた。

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ツアーのスタート地点に向かう前からヒヒ親子あらわる

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生命力やばそうな木シリーズ1

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生命力やばそうな木シリーズ2。人2人くらい絞め殺してそう。

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chimps!おれたち人類の親戚の登場だ!

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生命力やばそうな木シリーズその3。ゲーム・オブ・スローンズだったらここで三つ目の鴉になれる

2.土の家

2日目午後。Kibale国立公園の近く、Bigodiという村でコミュニティウォークというプログラムに参加した。現地の青年がガイドになって村を案内してくれるというもので(費用はツアー代金に含まれている。)振り返るとここがいちばん調査っぽかった。ガイドの青年に、家に興味があることを伝えたところ、Bigodi村の家も見せてもらえることになった。ありがたい。

ウガンダ西部で見た民家は、おおむね「土の家」か「煉瓦の家」だった。まずは土の家から。

バナナ農家の家

Bigodi村の若きガイド、ピーターがまず連れてってくれたのはバナナ農家の家だった。その家がこちらだ。

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超かわいい

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赤い土の外壁。地面の土と同じ色。

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家の中もちらっと見せてもらった。布で間仕切りができるようになっていて、奥がベッドスペースになっている。

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屋根の架構。中心部が柱で支えられている。茅系の屋根と土壁がはっきり分かれているのがよく分かる。

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バナナ倉庫、キッチン、ベッドのある家、トイレがそれぞれ分散している。洗濯物の干し方が豪快だ。

平面的には3m×2.5m程度の長方形なのだが、屋根は方形屋根とも円形屋根ともつかない丸みを帯びた形をしている。なんともいえない可愛らしさは、小ささや色合いに加えてこの丸みの効果がありそうだ。寝室のある家が2つ、バナナの倉庫、キッチン、トイレ、シャワー小屋(屋根はない)が分散配置されていた。

コーヒー農家の家

続いてコーヒーの栽培をしてるおばあちゃんの家を見せてもらった。

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こちらの屋根はトタン葺き。少し茶色味が強いのは築年数によるものか。

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この家の家主、コーヒーを栽培しているおばあちゃん

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コーヒーをいただくことに。フライパン焙煎。やはりキッチンは母屋とは分かれている。

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お湯が湧くのを待つ。左側がキッチン、右側が母屋

この家は家主のおばあちゃんが1人で住んでいる。こちらは切妻屋根のトタン葺きで、台所はやはり母屋とは離れて設えられていた。

この家では出入口や窓の上部に小さな開口部が空いていた。ピーターに聞くと「It is ventilation」と回答が。ベンチレーション・・換気用の窓のことだろう。ただ単に開口だけのところもあれば、穴あき煉瓦を使っている場所もあった。それ以降見た家にはほぼこの開口があり、換気窓はウガンダでは常識なのかもしれない。

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穴あき煉瓦が埋め込まれた換気窓。そういやCottage Buildingで換気の部分の翻訳した(気がする)。ウガンダ1893年から1962年までイギリス領地であったが、西洋の家づくりの知識がウガンダの民家に与えた影響もあるのかもしれない。(ないかもしれない)

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家の中をみせてもらった。換気窓が妻面の棟近くにもある。

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わりと明るく見えるが、カメラの露光を最大まで上げているので、実際はとても暗い。

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ベッドスペースは蚊帳で囲うのが標準仕様
町の薬局

最後に連れていってもらったのは町の薬局的な場所だ。ウガンダでは(とくに農村部では)経済的な理由から病院に行ける人は限られており、この村では様々をハーブを薬として町の薬剤師が処方しているそうだ。ガイドのピーターと歩いているときに「この植物はabortion(中絶)するときに薬として使う」と教えてくれた。おお。。。*1 住まいとしての「土の家」は窓が小さく内は暗かったが、対してこの薬局は360度の連続水平窓が設けられていて中はとても明るい。円形プランの無柱空間となっていた。水平窓の効果で屋根が浮いたように見える。

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少し高い場所にある町の薬局

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3代目だという薬剤師の方。右手にある液体がハーブの薬とのこと。demon(悪魔)などのワードがけっこう出てきて、悪魔祓いなど、民俗信仰の話が出てきたのだけど、ちゃんと理解できず。

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屋根の架構。放射状に垂木が組まれ、開くのを防止するため斜材が2本入っている。

3.煉瓦の家

つづいて煉瓦の家。ウガンダでは都市部でも農村部でも、家は煉瓦造がいちばん多く見られた。 場所を問わずその場所の土をそのまま煉瓦にしているようだ。その意味では煉瓦の家も土の家も、素材は「そこにある地面」だ。

焼成煉瓦の作り方と積み方

ウガンダで使われていた煉瓦は焼成煉瓦だった。煉瓦の作り方は、ピーターから聞いた話だと、(1)土を型に入れて成形する→(2)数日間天日干しする→(3)脱型後、空洞のある塊にする→(4)外側から粘土を塗り込み密閉し、内部から火を入れて焼く・・という製造工程だ。(泥を塗る前に重油を塗るのが一般的のようだが、ここでやってたかどうかは不明。)

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脱型した煉瓦を塊にして泥を塗り込んでいる様子

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完成した煉瓦はそのへんに積み上がっている

そして、完成した煉瓦を積み上げていく。積み上がった壁を見て何か違和感があると思ったら、目地のモルタルがやたら厚い。ざらっとした白いペースト状になってるのは、セメントと混ぜる砂が白いからなのだろうか。

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目地となるモルタル(いや、モルタルなのか?)が煉瓦の半分くらいの厚さ

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壁まで積み終わった状態の建物をよく見かけた。まっすぐな木材のほうが貴重なのかもしれない。村では建材用のの木を植樹して育てていた。

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煉瓦の壁に乗っかる屋根架構。土でも煉瓦でも屋根だけは木造。
共通する半屋外空間

煉瓦の家の構成には共通する特徴があった。それは多くの家が「屋根がついた半屋外の空間」ファサード側に有していることだ。半屋外スペースの奥行きは家によってまちまちだが、だいたい2m程度か。そして、ここに居る人が実に多かった。家の中より涼しいのだろうか。ぼーっと座って過ごしていたり、お店の一部として使われていたりした。

半屋外空間をつくる屋根と柱のバリエーションが多様で、この半屋外のファサードが街並みを作る大きな要素になっていた。タイポロジー、というほど分類できてないけど、いくつかの典型的なパターンを以下の写真で紹介する。

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ウガンダの家でよくみられた半屋外空間。椅子に腰掛けてすごす人がいる。ここで本読むの気持ちよさそう。

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模様やアールがついたタイプ

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下屋がついたタイプ。ちなみに建具はそのへんの路上で売られていて、好きな建具を買って取付られる。

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木の屋根架構が跳ね出して庇をかけるタイプ。柱は節みたいなのが見えるのでもしかしたら木材かもしれない。

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畑の近くにあった家。入母屋でもテラスがある。
石と煉瓦のハイブリッド

数そ少なかったが石積みの家も見た。ゴリラの住むBwindiの森から少し離れた標高2000mほどのエリアには、採石場があり、近くの家の壁は、そこで採れたであろう石を積んで出来ていた。ただ、出隅や建具まわりなど直線が求められる部分には煉瓦が使われていた。石と煉瓦のハイブリッド組積造の家。この組み合わせは決してウガンダに限った話ではないだろうが、つくづく煉瓦は便利な材料だなと思う。

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石と煉瓦のハイブリッド1

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石と煉瓦のハイブリッド2

4.赤い土の正体

この赤い土が何なのか気になり、いろいろググっていたら、ESDAC(EUROPEAN SOIL DATA CENTRE)のHPにウガンダの土壌を分類した地図があった。超かっこいい。

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UGANDA SOILS(THE SOIL MAPS OF AFRICA)に町の位置を加筆。グラフィックかっこよすぎる。

この地図のすばらしいのが、地図の塗り分けに土の色合いが反映されていて、赤い土(dominant colour red)のところは赤色系、茶色い土(dominant colour yellowish)は黄色系で描かれている。首都カンパラは本当に赤い町だったし、赤い土壁の家を見たkibareも地図状の色分けは赤色だ。建物も木もなかったら案外こんな感じなんかもしれない。それと前回の記事で調べたウガンダのLivelihood zone mapと並べてみても、かなり関連ありそうな感じがする。

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左がLIVELIHOOD ZONES MAP、右がSOILS MAP

で、この土は何かという話に戻ると、赤い土も黄色い土も土壌は"FERRALLITIC SOIL"となっている。日本語では「鉄アルミナ質土壌」(weblio英和辞典)になるようだ。呼称としてはフェラールソル(Ferralsols)と呼ぶのが一般的なようで、アフリカ日本協議会というNPOのサイトに詳しい説明がされていた。

赤道付近に広がっているフェラールソル(Ferralsols)は、鉄の元素記号Feからも分かるとおりに、鉄が集積してできた土壌である。フェラールソルは、分布が中南米中央アフリカの熱帯地域に限定されている。そのことからも、かつてこの二つの大陸が繋がっていたのではないかと想像することができる。植物の養分であるカルシウムなどが無くなった結果、動きにくく現れにくい鉄が出現してできた土壌である。鉄は少量で酸化鉄になり、赤土を形成する。http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/activities/afs5.html

 「中南米中央アフリカが繋がっていたことを、赤い土から想像する」だなんてカッコ良すぎる。

さらに読み進めていくと、「土は酸性であり、植物が育つには不利な条件の土壌である」「フェラールソルが多い地域は熱帯雨林」「木が自分の落とした葉から養分を得ているため土が痩せていても大きな木が育つ」「粘土質となっており、粘土の鉱物的な性質をみると、陶磁器などに使用するカオリンというタイプの粘土であること」など興味深いことがめちゃ書いてある。「陶磁器などに使用される粘土」というのは、山になっている煉瓦をみると納得できる。それにしても植物に不利な土だったなんて。

ちなみに石積みと煉瓦のハイブリッドの家のあたりは、ちょうど「volcanic ash」と「humic ferrallitic soil」の境くらいの位置にあり、これも直訳すると「火山灰(凝灰岩系?)」と「腐植質のフェラールソル」になるのだが「ハイブリッドなのは石と土が両方ある場所だから」と早合点するのはあまりにも安易だろうか。

ウガンダの土、少し持って帰れば良かったとすごく後悔している。

*1:ちなみにウガンダ合計特殊出生率は5.10(WORLD BANK 2017)と世界的に見ても高い数値となっており、爆発的な人口増加が問題となっている。出生率が高く維持されてきた理由として「社会保障制度が乏しい他の途上国と同様に、多くの子どもを育てることが各世帯の家計を支える際の将来的な保障になっている」という考えが強いことが指摘されている。(吉田昌夫、白石壮一郎『ウガンダを知るための53章』(明石書店、2012)