今日の実験ノート2

日々の調査研究

ウガンダ疾走調査(その1 - 集落と農業)

2年前の話である。

なぜ今になってウガンダの話を書いてるかというとそれはサボっていたから。
言い訳としては仕事が忙しかったり、1年続いた某勉強会にうつつを抜かしていたり、昨年は某試験の勉強をしてたりしていた(お陰様で受かりました)。その他、MCUの映画をはじめ、ゲーム・オブ・スローンズ、THE BOYS、モダンラブのイッキ見など枚挙に暇がない。

で、今までサボってたけど、やっぱり書くことで初めて考えられることもあると思うので、twitterもいいけどブログにも書いていきたい。というか2年前の話なので、もはや思い出すために書いているようなものだけど。

 

0.調査概要

・調査日程:2018年4月20日〜5月2日
・移動距離:514.529km(4/21-4/28)(GPSログ
・調査場所:集落(ウガンダ西部)と都市(カンパラ
・調査員:2名

調査記録っぽく書きだしてみたけど、実のところは新婚旅行です♡♡♡。6泊7日のゴリラ+サファリツアーに加えて首都カンパラに4日間滞在した。だから僕も最初は調査のつもりじゃなかったけど、7日間のツアーがひたすらジープで長距離を移動する(で、たまに村や街に立ち寄る)というスタイルで「あれ?これ、学生のときから続けている疾走調査と同じじゃん・・」と気づいてからはすっかり調査モードに。しかも7日間ドライバーをしてくれたガイドのフランシスは現地のことを聞けば何でも気さくに教えてくれるので、結果的にこの上ない調査環境となった。(以下、ツアーのことを無理やり「調査」と書く)

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ウガンダは東アフリカに位置する内陸国で、ケニアタンザニア、ワカンダ王国と接している。赤い線が今回のGPSログ

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調査ルート周辺の航空写真

調査ルートは、空港のあるエンテベからスタートし、1週間で4つの国立公園を訪れ、ひとしきり野生動物を愛でたのち、首都カンパラへと戻る。上の赤線を反時計回りに描くように移動するルートだ。野生動物が住む国立公園の多くはウガンダ西部にあるため、正しくはウガンダ「西部」疾走調査となる。移動距離は合計で約500キロで、初日と最終日はほとんど車に乗っていた。

以下、基本的には調査の日程順に振り返りながら、適宜トピックごとに整理したい。

1.費用について

その前に費用について。今回参加したゴリラ&サファリツアーの費用は、専用の車、英語が話せる専属ガイド兼ドライバー、燃料代、宿代、駐車料金、朝食、水、国立公園内でのレンジャーがセットで、2人合わせて2972ドル。1人あたり16万円と聞くとかなり高価に思えるし実際そうなのだが、日本のツアーだと日本語が喋れるガイドと航空券もセットで70万円(!)とかがザラなので、現地のツアーに申し込むのがおすすめです。

(われわれはこのツアーに参加した↓)

それと、野生のマウンテンゴリラが住む熱帯雨林であるBwindi国立公園に入るにはGorilla Permitという許可証が必要で、この取得に別途600ドルかかる。この追加はちと痛いが、世界全体で約900頭しかいない絶滅危惧種マウンテンゴリラの保護に使われてるそうなので、これに関してはぜんぜんOK。ちなみにBwindiでは、1日のゴリラトレッキングの枠が計32人なのに対し、世界中から希望者が殺到している圧倒的な需要過多の状況で、個人での許可書の入手は困難な状況なのだそう。(参考)EICネット[ウガンダのゴリラトラッキング]

それとウガンダに入国するのに黄熱病の予防接種が必須なので、黄熱病の予防接種とマラリアの薬代に2万円くらいかかった(気がする)。

2.インフラと暮らし

初日。空港のあるEntebbeから、首都Kampalaを経由し、300キロ西にあるFort Portalへ。遅い昼飯ののち南下し、熱帯雨林のあるKibaleまで移動して宿泊。道中の景色は都市から農村へ移り変わってゆく。地面が赤い!舗装がめちゃ雑だ!

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舗装された道路。道はボコボコ。おそらく表層のアスファルトだけ薄く施工して、下地となる路盤はそもそも存在しない。

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未舗装の道路が多い。土は粘土質で水はけも悪く水たまり多発。四駆必須。

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首都カンパラ。車が多い。人も多い。

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首都カンパラですら信号が殆ど無く渋滞がすごい。あと半分くらいノーヘル。

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ステンレス。ウガンダ国内の車の80%以上は中古の日本車とのこと。
道路について

1日目はひたすら車移動だったため、まず気になったのは雑な道路だ。未舗装の道が多く、舗装の質も低い。見た感じは表層アスファルトだけ数センチ舗装され、下地は転圧はおろか砕石すらなさそうな様子。布切れのような舗装だ。赤茶色の周囲の土がアスファルトの隙間に目詰まりしており、地面と道路が一体化している。

ガイドのフランシスは「政府の道路整備は汚職まみれでいっこうに進めず全然ダメ」と言っていた。「穴があいた道路はずっと修理されない」とも。

それでもストリートには人、人、人。

その他インフラについて補足すると、上下水道は首都カンパラほか都市部の一部のみで、大半においては整備されていない。電気は地方でも大規模な送電網が巡らされていたが、電力普及率はアフリカでも最低水準で、22%のウガンダ人のみが電力へのアクセスを持ち、地方では普及率が 10%まで下がる。*1ちなみに発電方法はすべて水力発電。その大部分はナイル川流域に建設された主要な3つの水力発電所で賄っているとのこと。*2さすがナイル川だぜ。

ただみんな携帯は普通に使っており、通信環境はかなり整備されている。ハードよりもソフトが先行でインフラが整備される、というのはアジア途上国の状況にも似ているのかもしれない。そんな訳で道路やハードの整備は全然なのだが、ストリートには人がたくさんいて(しかも若い!)、ものすごい活気に溢れていた。そんな雰囲気を感じつつ初日の宿に到着した。

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ウガンダ西部、kabale地方の路上マーケット。とにかく人が多い。活気がすごい。

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初日と2日目に泊まったKibale forest campの食堂。森の中のコテージに泊まる。いわゆるグランピングみたいな感じ

3.農業と暮らし

2日目。午前中にKibale国立公園で野生のチンパンジーを探し歩く。午後はコミュニティウォークというプログラムに参加し、国立公園近くの村を住民のガイド付きで歩く機会に恵まれた。

ところでウガンダは農業国である。人口約3,884 万人のうち、約8割が農村部に居住し、労働人口のうち約7割の1,254万人が農業に従事している*3(とはいえみんなが農業で生計を立てられてるかいえばもちろんそんな訳はなく、就職率は20%程度と書かれている記事もある)。

それゆえに人々と暮らしについて見ようとすると農業に触れないわけにはいかないのだが、いかんせん今回の調査は「村に入り込む」類のものではない。あくまで「歩いて見た風景」あるいは「車の窓から眺めた風景」くらいの情報しかないのだけれど、それでも農業と暮らしの様子を垣間見ることができた。

「作る、運ぶ、売る」のゆるさ

1つは「作る、運ぶ、売る」が高度に専門業化されていないことだ。プロじゃない「ゆるさ」が滲み出ていると言い換えてもいいだろうか。たとえば地方ではスーパーマーケット的な店が少ないため、路上に簡易的な店があり、おそらく近くで取れたであろう農作物や食べ物が売られている。

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左側で野菜・果物を、右側で焼いた肉を売っている。即席の屋台がかわいい。

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跳ね出しの部分良い。よく見ると照明がついていて、夜もやってるのだろうか。

「運ぶ」についても同様のゆるさが出ていた。4tトラック等の運送専用車両もあまり見られず、むしろ、個人や小規模でバナナを運んでいる様子がよく見られた。バナナの運び方も自転車だったり一輪車だったり乗用車のトランクだったりと様々で面白かったので下の写真で紹介しよう。

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自転車(よく見ると3輪車にカスタマイズされている)とバナナ!

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バイクとバナナが一体化している。かっこいい。

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自動車とバナナ(入りきってない!)

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これも一種のshipping..?動物とノーヘルバイク3人乗り
多様なLIVELIHOOD

もう1つ興味深かったのは、窓から見える農地のバリエーションが豊富だったことだ。車に乗っていると風景がダイナミックに変わってゆく。

実際、ウガンダで営まれる農業は北部、東部、西部、中南部で異なり、農業品目は他アフリカ国に比べ多い。そのポイントは降雨量と地形にあるようだ。

日本の本州ほどの面積を持つウガンダには、標高600〜5000メートルの間に山岳地や丘陵地、平地など多様な地形が広がっている。気候は大部分が熱帯サバンナ性であるが、年間での雨季の回数(赤道付近は2回、北部は1回)と期間、降水量(500〜2000ミリ)が緯度や標高によって異なる。このような自然条件のもと、営まれる農業もまた多様である。

吉田昌夫、白石壮一郎『ウガンダを知るための53章』(明石書店、2012)

同書によると、2008年の農業生産量の上位は、料理用バナナ(937万㌧)、キャッサバ(507万㌧)、サツマイモ(271㌧)、トウモロコシ(127万㌧)、ミレット(78万㌧、主にシコクビエ)、ジャガイモ(67万㌧)、ソルガム(48万㌧、主にモロコシ)となっている。圧倒的に炭水化物がメインで、これらは基本的なウガンダの主食と重なる。
一方、2009〜2013年の農産物の輸出額の上位3品目はコーヒー、タバコ、茶であり、農業生産量と農業輸出額は一致していない。コーヒーや茶畑はよく見かけられたが、どうやら国内用と輸出用で棲み分けがあるようだ。

で、地域別の農作物の分布がないか調べていたら、FEWS NET(飢餓早期警報システムネットワーク)にウガンダの地域別のLivelihoodが公開されていた。

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Uganda 2013 Livelihood Zones Map ウガンダのLivelihood(=人々の生活の立て方)を地域別に分けた地図。すごい!

この「Livelihood」とは、生活や、生計のたて方、という意味で、農業国ウガンダにおいてはほぼ農業品目や畜産等の1次産業を指す。この言葉自体は恩師である中谷先生の著作『動く大地、住まいのかたち』(岩波書店 2017)で知った。ちなみにこの本の中で中谷先生はlivelihoodの概念をもとに、Buildinghoodという、土地と暮らしと建物(あるいは建てること)の関係性についてのアイデアを展開している。思考をドライブさせるような名付け力が凄すぎてなんかもう流石としか言いようがない。

しかもこのLivelihood Zones MapはPDFだけでなくshpファイルが公開されていた。Google EarthGISソフトで開くことができ、GPSログと重ね合わせることができるのだ。マジで最高。

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Google EarthGPSログ(赤線)とLivelihood Zoneの重ね合わせ。クリックするとそのエリアのLivelihood(生計のたて方)が英語で表示される。上図では日本語で筆者加筆

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標高データと比べると、ちょうど地形が切り変わるところでLivelihood Zoneも変わることが分かる

それで言いたかったのは、撮った写真の農風景とマップのLivelihoodがかなりきれいに一致していたのだ。もちろん、あるLivelihood Zoneの中で、それ以外の作物が育てられていないという訳ではないのだが、農と暮らしの様子、そこでの人々の振る舞い、を大局的に見ていくうえではこの地図はとても重要なツールになりそうだ。

下の写真で各地域の農風景の様子を紹介して、前編はいったん筆を置きます。

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緑がまぶしい茶畑。この地域のLivelihoodは「茶、酪農」となっている。

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いちばんよく見られたのはやはり調理用バナナ。緑色のまま収穫し、蒸してつぶして食べる。メインの主食。

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丘陵地の茶畑。ウガンダ人はコーヒーよりも茶を好んで飲むそうで、そういや朝食の際は、大量のミルクティーが入ったポットがよくテーブルに置かれていた。

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車道にて牛の行進と出くわす。ウガンダイスラム教も総人口の12%程度いるため畜産は牛メイン。このエリアのLivelihoodにも肉牛がリストされていた。

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ウガンダ最西部にあたるkabale地方は標高1800mを超える。段々畑ではジャガイモやソルガムきび、野菜類が育てられている。

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ゴリラの住む森にほど近いBwindiの村。斜面はみっちり畑になっている。天国みたい。

後編は、ウガンダの建築(主に民家)と動物について書く予定。あくまでも予定。